用語解説

語句

アリル頻度、抗原頻度

HLAのタイプは通常、アリル型もしくは抗原型で表記されます。アリル型は遺伝子レベルでの表記、抗原型はタンパク質レベル(正確には“血清学によって決められた型”)での表記です。
HLAは多型に富んでおり、そのアリル数は検査法の進歩やHLA検査に対する認識の強まりなどから、年々新しく発見され、増加傾向にあります。(参考ホームページ:IMGT home page)それぞれのタイプが母集団内にどれだけの割合で存在するかを示したのが、アリル頻度、抗原頻度です。

表現頻度

遺伝子型がhomozygoteもしくは、片方アリルの欠損の場合(例えば、A*24:02,-)、これにより表現されるタンパク質は1種類です。
つまり、遺伝子の数と表現されるタンパク質の種類は異なる場合があります。
母集団内で、それぞれのHLAがどれだけの割合で表現されているかを示したのが、表現頻度になります。

ハプロタイプ

ハプロタイプとは、"haploid genotype" (半数体の遺伝子型、haploidはhalfが語源か?) の略で、ゲノム全体に対して述べられる場合、いずれかの片親に由来する遺伝子セットのことです。
HLAにおいては各遺伝子座のセット(例えば、HLA-A,B,DRB1の組み合わせ)を指し、そのハプロタイプは移植免疫、人類学などに非常に重要になります。

連鎖不平衡

HLAのハプロタイプには遺伝的連鎖が存在する。つまり、メンデルの独立の法則には従わず、セットで遺伝します。
この連鎖には不平衡が存在し、集団遺伝学的にみた場合、あるハプロタイプの頻度が有意に高くなる現象がみられます。

LD値、RD値

連鎖不平衡の度合いを数値化したものが、LD値、RD値です。
これらの値に関する考え方、式については今西らの方法※1に基づいています。
LD値(linkage disequilibrium value)とは、ハプロタイプ頻度の観察値と期待値の差であり、次の式で求められます。

LD = HF(AiBjCk…)- aibjck

・HF(AiBjCk…)ハプロタイプ頻度
・ai,bj,ck各遺伝子座の頻度

しかし、表1.に示したように、各ハプロタイプ頻度は大きく異なる場合あります。
このことは上記の式より、LD値のみでの指標ではばらつきがでることを示唆しています。

HLA-A,B,DRB1ハプロタイプ頻度

<表1. HLA-A,B,DRB1ハプロタイプ頻度>
A-B-DRB1 ハプロタイプ頻度 LD値 RD値 順位
*24:02-*52:01-*15:02 8.468% 8.033 0.786 1
*33:03-*44:03-*13:02 4.081% 4.057 0.737 2
*24:02-*07:02-*01:01 3.746% 3.627 0.654 3
*24:02-*54:01-*04:05 2.609% 2.238 0.312 4
*02:07-*46:01-*08:03 2.003% 1.988 0.573 5
*11:01-*15:01-*04:06 1.281% 1.259 0.397 6
*24:02-*59:01-*04:05 1.062% 0.968 0.535 7
*11:01-*54:01-*04:05 0.958% 0.866 0.116 8
*24:02-*40:06-*09:01 0.866% 0.630 0.146 9
*26:01-*40:02-*09:01 0.843% 0.754 0.100 10

この現象を補正するのがRD値(relative linkage disequilibrium value)です。
つまり、RD値(relative linkage disequilibrium value)は、LD値を相対的にみたものになります。
RD値はLD値を、LD値が取りうる最大の絶対値で割ることにより求められます。

RD = LD/|LDmax|

・(LD≧0) LDmax = Min{aibjck…} - aibjck
・(LD<0) LDmax = Min{0,(aibjck…)-(座位数-1)} - aibjck

Min{}、Max{}は、{}の内の変数の最小値、最大値

LD値の最大値はLD値が正の場合、アリルの母数=ハプロタイプの母数なので、各アリル頻度の内の最小値となります。 LD値は値が大きくハプロタイプ頻度に近いほど、RD値は1に近いほど連鎖不平衡が大きいと考えられます。 また、LD値が負の場合、負の連鎖不平衡が存在します。

※1 今西規、徳永勝士、赤座達也ら:日本人集団におけるHLA遺伝子の対立遺伝子頻度とハプロタイプ頻度(第10回日本HLAワークショップ共同報告)、今日の移植4Sippl.2:147-185、1991